とうとう、上司に転職の意思を伝えた。
もっと反対されると思った。もっと強く引き留められると思っていた。もっと感情的に怒られるとも思った。
いやむしろ、その方が気持ちが楽だったのかもしれない。変な話だが、そういう反応を期待していたのかもしれない。
反応は予想外に落ち着いたものだった。
最初に出てきた心配が、収入は落ちるんじゃないのか、生活は大丈夫なのかということ。
そして、社外にやりたいことを見つけた人が転職するということは、介護や冠婚葬祭と同じめ、巡り合った人は行動するし、巡り合わなかった人は行動しない。ただそれだけの違いである。だから、自然なことだし、怒ることでも引き留めることでもない。そう言ってくれた。
もちろん、「めちゃくちゃ困るけどな」と、言われた。笑いながら。それを聞いて、ああ、この上司はこんなに寛容だったんだ。そして自分は、わがままで、自分勝手なことを言っているんだなと思った。
上司に伝えるまでの期間、改めてたくさんのことを考えたし、さまざまな体験談を見聞きした。
その中で少なからずあったのは、半ば理不尽とも言えるような引き留めにあったケースだった。いわゆる「上司自身の利益のために」引き留めるケース。中には心ないことを言われるケースもあるようだ。
自分のケースは、少なくとも今のところ全くここには当てはまらない。人に恵まれているなと思う。
実際、自分の人生は本当に人に恵まれていると思う。こういう、節目節目でいつもそう思う。
今日、とうとう自分は本当に後戻りできない一歩を踏み出した。そう思った。自分の人生に対して、不可逆的な変化を自分の意思で生み出した。
もうすぐ人生の第一幕が終わり、第二幕がはじまる。その区切りまで、今までお世話になった全ての人へ少しでも恩を返せるように、残りの期間頑張っていこうと思う。