3冊目。
評価:8.5点
高校までピアノと何の縁もなく過ごしてきた青年が、ある調律師の調律現場に偶然立ち会ったことがきっかけで調律師を志し、音楽の深い世界に足を踏み入れながら、徐々に成長して行く姿を描いたストーリー。
音楽を題材に扱った物語は贔屓目に見てしまう前提で笑
決して起伏に富んだ文体ではないし、主人公の青年もまた哲学的な思考で感情的になるわけではない。でもだからこそなのか、調律という地味な現場で感じる些細な心の動きに、読み手側であるこちらも心を揺さぶられる。終始高揚感を(というと少し違うかもだけど)持ちながら、一気に読みきってしまった。
音楽に対する世界観の描き方も好きだったな。
細かい理屈をほとんど抜きに、しかし一流奏者や調律師の深遠さを情景的な言葉を使って描写している感じ。理屈じゃないからこそ、伝わるものがある。
あとは、技量が全てではない、楽器に注がれた愛情にこそ価値があるというような描き方もすごく好き。音楽はアウトプットももちろん大事だけど、そこに至るまでにどれだけ自分なりに精一杯音楽に向き合い、努力し、楽しんだかという過程こそが一番大事。ただそれを体現するためには、逆説的だけど常に向上心を持って努力し続けることが必要…というのが自分の信条で、ここに描かれていることにはとても共感できるものがあった。
もっとこの世界に浸っていたかったなあという想いを込めて。
いい本に出会えました。